某企業が、「そだねー」について商標登録出願をしたようです。
本件、知り合いの弁理士さんと意見交換したのですが、「商標を考える意味でもとても良い題材だなぁ」と思い・・・
「そだねー」の商標登録出願について、すこしまじめに書いてみます。
1 「そだねー」商標登録出願の行為が、盗みなのか否か? の前に考えてほしいこと。
そもそも、商標登録(商標権)は、何を保護するためのもの?という点です。商標法第1条にかいてあるように、保護対象は、商標そのものではなく、商標に化体した(のりうつった)業務上の信用。本当は信用を直接保護したいのだけども、信用を直接保護できないので、しかたなく、商標を保護することで、間接的に信用を保護するというもの。つまり、商標は信用を貯めるための器に過ぎないのです。このため、商標の知識のある人であれば「商標、つまり器だけの議論をしてもあまり意味がないのでは?」と考えます。
この辺、少しわかりにくいですが、受験生の時には、こんなイメージで理解しておりました。「俺の顔に泥を塗りやがって」というセリフ。顔が汚れたことが問題でなく。その人の信用(生き様だったりメンツだったり)に傷をつけたことが問題です。この例でいえば、「顔」が商標に相当するのですが、その人がご立腹なのは、顔が汚れたことではなく、信用が傷ついてしまったこと。こんな商標と信用の関係は、大体こんなイメージで把握してもらえればよいのでは、と思います。
2 「そだねー」の商標登録出願をした行為
出願行為が、仮に、
「そだねー」の信用を盗もうとしている
「そだねー」の信用を薄めようとしている
「そだねー」の信用を傷つけようとしている
のいずれかであれば、いわゆる「信用の盗み」にも近しいものがあり。そうであれば、商標法上、登録を拒絶できるルールを用意しています(もちろん、現状の法律で全てが救えるか否かは、別の問題です)。
つまり、今回の出願が盗みなのでは?と考えたいのであれば、「そだねーに”業務上の信用”は化体している(のりうつっている)のか?」を考えたいところですよね。
なお、現時点において、「そだねー」は、一定の知名度はあるものの、一定のビジネスとして利用されていない(少なくとも私は知りません)ので、業務上の信用には至っていないのでは?とおもいます。このように考えると、商標法上、言い替えれば、「業務上の信用」という観点では”現時点でセーフ”になると思います(私見)。
この手の出願の多くは、”業務上の信用”にあやかろうとするではなく・・・有名なキーワードの”人気”にあやかろうとしているのに近い、と思いますし、今回もそうなんだろうと思います。
3 商標法上、適法ならよいわけ?
「違法ではないが適切ではない」というセリフもあるように、「適法にしても、それはアンマリじゃないの?」という気持ちは想像できるし、理解もできます。倫理というか、道徳というか・・・モヤモヤしたところから湧いてくる感情なのかもしれません。もちろん、企業側としては、こういった副作用の有無について検討すべきでしょうし、こういったリスクに対して当然手を打っておきたいところです。
さて、今回のケースにおいても例外なく、カーリング関係者、カーリングのファンの人から見て、「当該企業の行為って、どうなの??」「当該企業って何なの??」といった疑問・疑惑・不信のようなものが沸いてきても不思議ではないですよね。
4 今回の出願で、当該企業が失う可能性のあるもの
「そだねー」を出願した当該企業。私は、その企業のイチゴのお菓子や、バターサンドでお世話になりました。なので、お菓子の名前やパッケージだけでも胸がトキメキますし、その社名をきいてもトキメキます。これって私だけではないはずし、その企業にとっては大きな財産なわけです。
ところが、この企業が「そだねー」を商標登録出願をした行為によって、カーリング関係者、カーリングのファンからの疑問・疑惑・不信のようなものが沸いてくる。これについては、当該企業のファンだった人についても同様です。結果、自社の地位を傷つけることにもなりかねず・・・そして、一定の地位を回復するのにどれだけの時間(もちろん、金も、手間も)を要するのか?これを考えただけでも頭が痛くなります。
とりあえず、変な人に取られたくないから・・・の理屈もわかるのですが、商標として「そだねー」を使用しない以上、登録後3年後には不使用取り消しの対象となってしまう。よって、「変な人に取られたくないから・・・」といった防衛的な出願も、使用しなければ、その効果も限定的なわけです。もちろん、効果ゼロではないのですが、もう少し方法があるのでは?とおもいます。
5 共存共栄を考える・・・
そこで、私が、この企業の立場で、このような出願を出そうとするのであれば、前述の副作用(デメリット)が怖いので・・・そのままの出願にはならないだろうな、とおもいます。
例えば、お金の乏しいカーリング協会や特定のチームとタッグを組み、カーリングのコラボ商品として売り上げの一部を寄付したり、企業宣伝で選手を利用する等。こういった提携型の広報活動を通して、共存を図る道を模索するのが一手かなぁと思います。このようにすれば、カーリング関係者もハッピー。ファンもハッピー。当該企業の従業員もハッピー。だから、当該企業もハッピー。と、みんなハッピーになりそうに思えないですか?
6 「そだねー」について振り返る
こう考えると、「そだねー」には業務上の信用がない(なさそうな)ものの・・・そこには、「好き」とか「いいね」という感情が確かにあり。とはいえ、いわゆる「ブランド」というにはまだまだ何かが足りない気もします。一定のレベルに近づいている・・・といったところでしょうか?
ここはもう少し時間が必要です。「くまもん」のように本当の意味でブランドに育つのか?それとも、一過性のブームで終わってしまうのか?この辺は、当該企業はもちろん、カーリング関係者を含めた方々の今後の活動の仕方によって変わるでしょう。個人的には、これをきっかけに、地域のブランドに育ってほしいと思いますし、こういう使い方が、今後の地域ブランドの育成モデルケースの1つになれば・・・と思います。
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